【電通】過労死と鬼十則に見る広告代理店の「常識」

電通,過労死,鬼十則

先日、とても悲しいニュースがありました。

電通で働く新卒社員の高橋まつりさんが、昨年12月に飛び降り自殺をしたという事実。

そしてその背景には月100時間を超える残業という現実があり、過労死として認定された、というニュースでした。

同じ広告代理店業界で働く人間として、これ以上無い悲しいニュースでした。

このブログは、広告代理店で働いている人も、そうでない人にも、広告代理店という仕事の楽しさや特殊性、さらには華やかだけではない事実を知ってもらえたら、と思って立ち上げたブログです。

今回のニュースをきっかけに、広告代理店の、そして日本中の企業の働き方が改めて見直されれば、と思いこの記事を書くことにしました。

電通の過労死は本当に電通だけの問題か

 「1日20時間とか会社にいるともはや何のために生きてるのか分からなくなって笑けてくるな」

これは自殺した高橋まつりさんのツイッターの投稿文です。

でも私はこれを読んでビクッとしました。
なぜなら私自身も全く同じことを感じながら働き、同じことをつぶやいた経験があるから。

広告代理店業界の社員労働時間の軽視

広告代理店

広告代理店業界は、他のどの業界に比べても社員の労働時間に無頓着な業種である、と私は断言します。

これは電通など特定の会社の話ではなく、広告代理店業界全体に言えることなはずです。

私が新卒で入社してから数年後、2010年代前半などは他業種に就職した友人は皆「残業時間を減らすよう会社がうるさい」と口を揃えて語っていたのを覚えています。

最近ではそれに輪にかけて、いよいよ本当に残業ができない、という声がほとんど。

そんな中、私だけは毎年毎年、社内でのポジションが上がるにつれ残業時間は増えていく一方。元々多かった残業時間にさらに「責任」というものが加わり、残業時間は減る兆しは全く見えません。

1年間12ヶ月のうち、残業が月100時間を超えることは約4ヶ月〜6ヶ月ほど。

残業が1ケタ台の月なんてもちろんありません。
ほとんどの月が残業50時間以上です。

私の記憶では、社内の通達として残業時間の短縮化やそのための試みがアナウンスされたことは一度もありません。(もちろん他の代理店ではあるかもしれませんが)

自分の上司が、たまに申し訳程度に「ここ最近朝帰りが続いてたみたいだから、今日は早く帰ってネ〜」と言うくらいです。(だからといって業務を投げ出して良いわけもなく)

広告代理店業界では、会社が企業として、社員の労働時間を把握、改善しようとする意識が極めて低い業界だといえます。

その理由は何なのでしょうか。

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広告代理店は究極の「代理サービス業」である

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その理由の一つが、広告代理店のビジネスモデルです。

広告代理店はクライアントからフィーなりコミッションなりをもらって、クライアントのマーケティング・コミュニケーションを遂行していくわけです。

そしてそれはクライアントにとって売上を左右する生命線となります。

SNSや口コミの台頭で広告は弱くなった、なんて言われていますが、正直その影響力はどんどん大きくなってきていると感じています。

誰もが気づかずに無意識にしている購買行動にも、実は綿密にネられたコミュニケーション戦略が影響している事がほぼ100%といえるのではないでしょうか。

我々はその道のプロとして、クライアントのコミュニケーションを最適化し、売上を最大化することをミッションとしてプロジェクトを遂行しているわけです。

当然、クライアントとのリレーションも深くなり、マネジメントのトップと意見交換をすることもしばしばです。そこで信頼を勝ち取り、年間数十億という莫大な広告予算をいかに自分の会社に集約することができるか、それが広告代理店の営業が行っていることです。

つまり広告代理店の従業員は、クライアントとしての物事の考え方が求められるのです。

「代理店の人間」として立ち回っている以上、クライアントとの関係を深めていくのは難しい。

クライアントのマーケティング部署の一員として、広告代理店をいかに上手く使って、良いコミュニケーションを展開していけるか、を考えなくてはいけないのです。

「この内容、現実的にはかなりきついな」と思うことも、本当に必要であれば自ら「やりましょう」といい、社内、さらにはその先の制作会社とひぃひぃ言いながら広告を作っている、というのが現実です。

つまり究極のサービス業なんですね。

昔であれば温情や馴れ合い・会社の規模で発注が来ていたものが、今すべて目に見えるデータとして広告効果を検証され、小さな競合他社とでも否応なしに天秤にかけられる。

そこから脱出するためには、社員の労働時間よりも、クライアントへのサービスが優先されるわけです。

よく電通は王様で、クライアントさえも操るパワーを持っているなんて話がありますが、我々普通の社員がやっていることは電通であれ他の代理店であれ変わりはありません。

電通であっても、年会何回もプロジェクトピッチに参加し、負け続けいる人達だっています。

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プロジェクト関係者の多さも残業が増える原因

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そんな話、クライアントサービス業であれば当然の話、かもしれませんが、それに輪をかけて広告代理店の残業時間を増やしているのが「関係者の多さ」です。

広告代理店の仕事は何ひとつをとっても、自分ひとりで完結できることって無いんです。

見積書作成みたいな事務作業は別ですが。

例えば小さなバナー広告一つとっても、それを作って出稿するためには、メディア・プランナー・CD・ADといった人たち、さらにはその先の制作会社の人たちとやり取りをしなくてはいけません。

それが1つのキャンペーンを展開するなんてなると、社内だけでも関係者は50人近くに上ったりします。

CMの打ち合わせ一つするのにも、社内の制作スタッフ(CD・AD・コピーライター)、プランナー、営業、プロデューサー、そして制作会社のプロデューサーと営業、ディレクター、キャスティング、、、、といった感じで超多忙な大人数のスケジュールを合わせなくてはいけません。

そうそすると、ミーティングが夜中の22時からしかできない!とか、平日は無理だから土曜日にやる、なんてことが日常茶飯事になります。

特に制作スタッフが関わるミーティングは開始時間が遅いです。

営業はそれに加えてクライアント対応もあるわけです。

週末でもクライアントのマネジメントからメールがきたら、PCを立ち上げて必要な資料を送る、なんてことは私はしょっちゅうやっています。

こういった関係者の多さも、広告代理店の残業時間が減らない背景にあります。

電通の鬼十則に見る、広告代理店の「常識」

そして何よりも、そういった背景をベースにした広告代理店業界の「時代遅れの常識」が、社員を長時間労働に縛り付けている何よりの原因だと思っています。

高橋まつりさんの過労死によって、電通の鬼十則に注目が集まっていますが、大げさではなく広告代理店業界の風潮はあの鬼十則に本当によく現れていると私は感じます。

電通鬼十則
1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
2. 仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
3. 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
4. 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
5. 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
6. 周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
7. 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
10. 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

私が新卒で入社したのは国内系の広告代理店でしたが、その会社での新人研修のときに競合他社であるこの電通鬼十則が配られたものです。

これこそが広告代理店マンのあるべき姿です、と教えられたのです。

1990年代の話では無いですよ。つい数年前の話しです。

日本の広告代理店で働く人達の中には「電通=神」、いつかはあの電通で働きたい、という野望を持っている人達が本当に多いのが事実。

私は外資系に転職しそういった考えはなくなりましたが、広告代理店にいるのであれば「電通で」働きたい、と思ったことは何度もあります。

他の追随を許さない電通社員のベースとなっているこの鬼十則は、広告代理店業界で働いている人間であれば誰もが知っているものであり、広告代理店業界のスタンダードになっていると言っても過言では無いものです。

私は電通で働く友人もいますし、転職していった先輩もいます。

そして感じるのは、電通には確かに私達とはレベルの違う本当の天才がいる、ということ。小手先のテクニックではなく、もう根本的に考え方や人間性が違う。エリートってこういう人のことを言うんだな、と。

その差を目の当たりにして、こりゃかなわないな、と思った経験は私だけでなく他の広告代理店に務める人であれば一度は経験したことがあるはず。

だからこそ「電通=神」みたいな勝手なイメージが産まれてしまうのかもしれませんが。

でもそんな方たちは働くことをスマートに楽しんでいました。

長時間労働の中でもそこにフォーカスをあてず、いきいきと働いている方がたくさんいるのも広告代理店業界のもう一つの真実の姿なのです。

良い広告を作りたい、世の中を動かしたい、そんな一見時代錯誤ですが本当にただ純粋な気持ちで、家族や友人との時間を削っても広告に人生をかけている人たちがいるのです。

ですが問題なのは、そういった人達以外の働き方の多様性が認められない現在の広告代理店の体制です。

広告代理店の未来のために

広告代理店が花形の就職先だったのは遠い昔です。

いつまでもその頃の栄光に浸っていないで、代理店業界のトップ達は世の中の現実に合わせて働き方もシフトさせていけなければ広告代理店の未来はありません。優秀な人材は、もっとよい労働環境を求めてどんどんと代理店から離れていってしまいます。

そしてそれはもう現実として起こっています。

コミュニケーションのプロである我々が、社会との、現実とのコミュニケーションを取らず、旧態依然とした業界体質を抱えたままでいるのはなんとも皮肉です。

高橋まつりさんのお母様の言葉通り、命より大切な仕事はありません。

広告代理店業界で働く私達一人ひとりが、それを心に留めて、そしてよりよい労働環境のために行動に移していけることを実行していきたいと感じています。

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